プロム(卒業を祝うダンスパーティ)も成功し、卒業式も終わりました。
平塚先生も離任すると決まり、比企谷くんが本当の意味でのプロムをしようとします。
──本当のプロムを……、本物ってやつを見せてやりますよ。
奉仕部は解散するわけですから、
比企谷くんは、雪ノ下さんやガハマさんと疎遠になってしまいます。
このあたりからの展開がすごいですね。
最終巻(14巻)を手にとってみてください。
比企谷 八幡「お前は望んでないかもしれないけど……、俺は関わり続けたいと、思ってる。義務じゃなくて、意志の問題だ。……だから、お前の人生歪める権利を俺にくれ」
雪ノ下 雪乃「……歪めるって何? どういう意味で言っているの」
比企谷 八幡「俺もそう思う。出会って、話して、知って、離れて……その度に、歪んだ気がする」
雪ノ下 雪乃「あなたが歪んでいるのは、元からでしょ。……私もだけれど」
比企谷 八幡「これからはもっと歪む。けど、人の人生歪める以上、対価はちゃんと払うつもりだ」
雪ノ下 雪乃「……まぁ、財産はほぼゼロだから、渡せるものは時間とか感情とか将来とか人生とか、そういう曖昧なものしかないんだけど」
比企谷 八幡「諸々全部やるから、 お前の人生に関わらせてくれ」
雪ノ下 雪乃「そんなの釣り合い取れてない。私の将来や進路にそこまでの価値、ない……。あなたには、もっと……」
そして、雪ノ下さんは比企谷くんに言うわけです。
雪ノ下 雪乃「私はちゃんと言うわ」
雪ノ下 雪乃「あなたの人生を、私にください」
真のプロムの下見をするときに、
雪乃さんは髪形を懐かしのツインテールにしてきます。
雪ノ下 雪乃「……休みの日でも、あまりしないけれど」
2人の関係を一色いろはに訊かれたときも、
※「パートナー」≒「本物」
雪ノ下 雪乃「ぱ、パートナー……、とか? かしら……」
葉山君や戸部くんらとサウナへ行ったときにも、
彼らから「みんなで見守ろう」といわれます。
戸部 「あ、っつーかさ、ヒキタニくん。もしかしてあれ? 雪ノ下さんと付き合ってたりすんの?」
葉山「言うなよ……」
戸塚「そうだよ。聞いたら絶対否定するからみんなで見守ろうって言ってたじゃん」
サウナを出てからも……。
そこへ、俺は無言で手を差し出す。
雪ノ下はその手の意味を図りかねてか、かすかに首を傾かしげ、そしてすぐに微苦笑を漏らす。
雪ノ下 雪乃「一人で立てるのに……」
比企谷 八幡「知ってる」
彼女が一人で立てることも、彼女がそう言うだろうということも、知っている。
だが、それでも俺は手を差し出すのだ。
たぶん、これからも。
真のプロムが終わってからも……。
「いえ、最後にひとつだけ言っておかないと」
「あなたが好きよ。比企谷くん」
完全な不意打ちに固まっていると、雪ノ下は恥ずかしそうにはにかんだ照れ笑いを浮かべた。
桜色に染まった頬を書類束でさっと隠し、ちらりと一瞬だけ、こちらの反応を探るように上目遣いで窺って、けれど、沈黙に耐えかねたようにじりっと後ずさりする。
そして、こちらの言葉なんてまるで待たずに、逃げるように足早に駆けて行った。
おい、マジかよ。ほんとにめんどくせぇなこいつ。
言い逃げされたらこっちはなんもできねぇだろ。
なにこれ、別の機会にまた改めて俺もなんか言わなきゃいけなくなるんじゃないの? そういうのほんと辛いですけど。マジでめんどくさい。
──けど、死ぬほどめんどくさいところが、死ぬほど可愛い。
新しい春が来て、比企谷くんたちは高校3年生になります。
プロムの後片付けで比企谷くんとゆきのんは奉仕部の部室をいまだに使っています。
ガハマさんはもういません。
平塚先生は学校を去りましたし、奉仕部は解散しました。
ですが、高校入学した小町さんが新たな奉仕部をつくることになるんです。
もちろん、新しい奉仕部の部長は、小町さんです。
部活の申請書には、雪ノ下さんとヒッキーの名前がもう書かれていたんですね。
そして、由比ヶ浜さんが相談にくるんですよ。
モイ泣きですね。
すごい泣きました。
由比ヶ浜 結衣「あたしの好きな人にね、彼女みたいな感じの人がいるんだけど、それがあたしの一番大事な友達で……。……でも、これからもずっと仲良くしたいの。どうしたらいいかな?」
ゆきのん「……お話を、伺いましょうか」
ゆきのん「どうぞ掛けて。長くなりそうだから」
ガハマ「……うん、長くなるかも。今日だけじゃ終わんなくて、明日も明後日も……ずっと続くと思うから」
ゆきのん「そうね。……きっと、ずっと続くわ」
比企谷くんは「高校生活を振り返って」というテーマの作文を1巻で書いてましたよね?
その内容があまりにひどかったので、
矯正の意味を兼ねて奉仕活動をやることになったんです。
そして、作品のラストの文章がこれです。
比企谷くんが書いた作文と比べてみると面白いですよ。
そして、空のままだったマグカップに琥珀色の紅茶が注がれた。
温かな湯気と、紅茶の香りが部屋に満ち、傾き始めた夕陽が窓辺に差し込む。
穏やかな春の陽だまりがそこに生まれていた。その暖かさに、俺は背筋を寒くし、顔を青くする。
なるほど、これが青い春かと、俺はまた新たな季節が訪れたことをひしひしと実感していた。
ああ、やはりだ。
やはりと言わざるを得ない。
──やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
サミュエル・ウルマンが書いた『青春』という詩があります。
一般人には、長らく「青春」の解答とされてきました。
青春とは人生のある期間を言うのではなく心の様相を言うのだ。
優れた創造力、逞しき意志、炎ゆる情熱、怯懦を却ける勇猛心、安易を振り捨てる冒険心、こう言う様相を青春と言うのだ。
そして、オタクの青春というのは、
もはや、俺ガイル(はまち)でしょう。
ゲームやラノベ、アニメといったメディアで、
100回以上青春を追体験しているキモオタの皆さんには釈迦に説法ですが^ー^
オタクはいつまでも青くないといけませんからね^ー^
そうそう、平塚先生の別れの言葉がカッコイイですよ。
「本物」に対する答えですし。
「本物」とは「別れたり、離れたりできなくて、距離が開いても時間が経っても惹かれ合うパートナー」のことですから。
そして、ヒッキーは「ずっと、疑い続ける」といってます。
本物とは「青春」の言いかえであるからして、
1巻の作文では「青春とは嘘であり、悪である。」と書いてあります。
見事に繋がりましたね。
ちなみに、1巻の作文では文の結びが「リア充爆発しろ。」となっていますが、
最終巻でも、平塚 先生は去り際に「リア充爆発しろー!」と言います。
それに対し、ヒッキーは「それ、古いですよ。十年前のセンスじゃねぇか」って言ってるんです。
おかしいですね。
気づきましたか? 平塚先生は、10年以上前に青春を謳歌した、われわれ読者なんです^ー^
平塚 先生「……君の本物は見つかったか?」
ヒッキー「どうでしょうね。そうそう見つかるほど簡単なものじゃないでしょう」
平塚 先生「共感と馴れ合いと好奇心と哀れみと尊敬と嫉妬と、それ以上の感情を一人の女の子に抱けたなら、それはきっと、好きってだけじゃ足りない」
平塚 先生「だから、別れたり、離れたりできなくて、距離が開いても時間が経っても惹かれ合う……。それは、本物と呼べるかもしれない」
ヒッキー「どうですかね。わからないですけど」
ヒッキー「だから、ずっと、疑い続けます。たぶん、俺もあいつも、そう簡単には信じないから」
平塚 先生「正解には程遠いが、100点満点の答えだな。本当に可愛くない。……それでこそ、私の最高の生徒だ」
ヒッキー「お世話になりました」
平塚 先生「ああ、君はほんとに手がかかった」
平塚 先生「……さよならだな」
ヒッキー「さよなら、先生」
総括
「本物」とは、たとえ別れたり、離れたりしても惹かれ合うものであり、
恋人を超えた存在である(作中では『パートナー』と形容されている)。
雪ノ下 雪乃と比企谷 八幡は、
生涯を通して「本物」と呼べるのかどうか、
お互いに疑い続けながら共生していくのである。
人間関係の距離とは?
Prelude4… から。
気持ちの距離は変えられないと由比ヶ浜さんは言っています。
ガハマさん「あたしたちの距離って、物理じゃないから。遠くに行っても、顔を見なくなっても、……気持ちの距離って変えらんない気がする」
ゆきのん「……そういうものかしら」
平塚先生は人付き合いについて言及しています。
平塚 先生「わかってないなぁ君は。人付き合いというのはね、そう簡単には終わらないんだよ。たとえ毎日合わなくなったとしても、やれ誰かの誕生日だ飲み会だと何かにつけて三か月にいっぺんくらいは顔を合わせるものさ」
平塚 先生「それがやがて半年に一度になり年に一度になり、顔を合わせる頻度が減り、ついには冠婚葬祭、あるいは同窓会でしか会わなくなる。そして、いずれは思い出すこともなくなるんだな」
ヒッキー「なるほど……。ん? あれ? 結構簡単に終わってません?」
平塚 先生「何もしなければそうなるという話さ」
『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。アンソロジー 1 雪乃side』
『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。アンソロジー 1 雪乃side』に後日談が収録されています。
タイトルは「斯くして、彼の前に新たな敵は現れる。」となっています。
雪ノ下の父親の視点から雪ノ下家の家族団らんの情景が描写されています。
話を要約すると、
- 陽乃さんが留学するということ
- 比企谷くんを雪ノ下父に紹介するということ
になります。
???「陽乃……。講義、受けていないの?」
???「単位は落としてないんだからいいでしょ別に」
???「あら? あれだけ私たちにちょっかいをかけてきたのに、フル単だなんて、……さすがですお姉さま」
???「し、進級するのには問題ないから!」
???「陽乃……あなたね、大学の授業が1コマいくらか一度計算してみなさい」
???「……まぁ、サボりはほどほどにな」
???「あ、そっかぁー……実家だと、あの子を気軽に呼べないもんね。お泊りだって難しくなるし。だからまた一人暮らししたいんだ」
???「なっ」
???「ね、お父さん。雪乃ちゃん、お父さんに会ってもらいたい人がいるんだって」
???「……へ?」
???「えっと……。その、私も、彼もそういうのはあまり得意ではない、というか。苦手だし好きではないから、たぶん、とても時間がかかるし……、今すぐではないけれど……」
???「父さんに、いつか、紹介……します」
『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』14.5 巻
???「彼女の口元は綻び、文字を追う眼差しは柔らかい」
ふたりは受験に向けた予備校を選んでいます。
「いえ。なんだか大学生みたいな会話だと思って」
「そう? どこが?」
「ただの想像でしかないけど……授業終わりに待ち合わせしているのがそれっぽいのかも。別々の講義をとっていて、その後、学食で話す、とか……。こんな感じなのかなって」
「ああ、なるほどね……」
言われてみれば、確かにそれっぽいかもしれない。
その想像の中では、俺たちはもう制服姿ではないし、誰かに決められた時間割でもない。
自分の選んだ服で、自分の選んだ講義を受けて、自分たちの自由な時間を、カフェテリアで共に過ごしている。
たぶん今より大人びた表情で、そのくせ今と変わらないような会話を、きっとしているのだろう。
その姿を見てみたい気がする。
けれど、そうはならないだろうな、とも思う。