俺っちが初めてプレイした美少女アドベンチャーゲーム――通称「音が出る紙芝居」は、
『Nursery Rhyme -ナーサリィ☆ライム-』です。
これは以前にも、お話したと思いますが、
何だかんだで『未来にキスを』って作品をやらされました。
夜も寝ないで授業中は全て寝て、
10年ぐらい前にやったので内容はよく覚えていませんけど、
サラサラと適当に書きます。
形而上学みたいな内容だった気がします。
俺っちは、絵でアニメを見ているオタクや声でアニメをみているオタクに、
「まだ絵でアニメを見ているの?」と揶揄してきましたが、
『未来にキスを』の絵を見ていると、
オタクってこういう絵に萌えるんかなって思いました。
オタクきもっ。
どうでもいいけど、登場人物が反社会的な危険思想ばかりですね。
ちなみに『 Kiss the Future 』っていう I've の曲がいいですよ。
劇中の曲のリスト(劇伴)をみてもヤバさしかありません。
「わたしの気持ちと霞の気持ちって、排他的でしょ?」
※排他的=排斥。人や思想を押しのけたり退けたりすること。
「2つの排他的な関係が矛盾なく成立する考え方があれば話はまた別だろうけど……世の中そんなに甘くないだろうし」
「取るとか取らないっていうのは、半永久的にその人を支配下に置くって考え方でしょ?」
人々が反目しない新しい方法があると、この女は提示します。
「リレーション・コントロール」
一緒にいたいときだけ、一緒にいたい人と一緒にいる……。
そんなフレキシブルな関係らしいです。
ジェネシスルート
頭がわいたメス同士の会話を見てみましょう。
人が考えて定義した言葉……ステレオタイプともいえる概念を使ってしまうと、
思考が「檻」に捉えられてしまいます。
檻というのは、近代教育システムひいては実態のない超越的なシステムのことです。
たとえば、社会という言葉を作ったのは、西 周(にし あまね)ですが、
社会という言葉の概念に「人」や「社会」そのものが縛られてい ます。
恋や愛も定義された概念にすぎないと解します。
こういった我々を縛る概念のことを本作では「自走するシステム」と呼んでいます。
自走するシステムを無視することで、
支配されず、人は自由になれる……。
本当の意味で「人間になれる」と主張します。
ししおどしや川は「永久機関」に例えられ、
人は自走するシステムに操られる永久機関……「オートマトン」になっているのです。
「わたしはおにーちゃんのお陰で気づいたですけど……世の中の人はほとんどみんな、古い世界にいるです」「だから、みんな自分の足で立って歩けなくなってるです……」「何の話……?」「好きっていう感情は、この世の中にはないんですよ」「えっ?」「ただ単に一緒にいたいっていう気持ちがあって、それを相手に届けるための形にしたのが、好きって言葉です」「だから、世の中に好きって感情はないんです」「簡単に好きって言葉を使っちゃうと……それは、すぐに固まって……檻みたいなものを作っちゃうです」「本当にはないものが、あるように見えてきて、上の方から人を支配しちゃうです」「人は……そんなものに支配されたら駄目なんです」「わたしたちの周りには、いつも『檻』があるんだってことに」「……システムが勝手に走り出して、わたしたちを支配するって訳か」
檻=システム=永久機関
人間を支配する近代教育 ≒ 実態のない超越的なシステム
「自動的に動くんだけど、人間じゃなくて、人間の上に超越的に存在してて、そして人間を支配するもの」
例として、法が挙げられます。
「うん……社会を円滑に運営するためのルールとして法があって、それに従わない者は罰せられる」
法 ≒ 社会を円滑に運営するためのルール
檻=システム=永久機関=法=ルール
自動的に動くこれらによって支配されている。
これらを無視することにより、自由になるのではないかと主張します。
「でも法は、技術的に行動を制限するだけじゃなくて、無意識のレベルにまで入り込んで、人間の根本にある意思まで支配しちゃう」
法は自動的に動く檻=システム=永久機関
超越的な存在=檻=システム=永久機関=法=ルール
それらを無視することで「人間」になれる。
でも、いまのままでは、人間になれない。
家族さえも自動的に走るシステムそのものであると。
「……これが、諸悪の根源なのかもね」
「……え? 何の話だ?」
「ねえ、何してるのー」
「自走するシステムの話」
「は、はみゃ?」
「……え?」
「正確に言うと、自走するシステムを仕掛けた張本人の話」
「近代的な教育が、歴史上最大の自走するシステムを生み出したんじゃないかって思って」
「……何のことだ?」
「昨日、椎奈が言ってたでしょ? 実体のない超越的なシステムが勝手に動いて、わたしたちを支配するっていう話」
「ああ……」
「そんな話してたな」
「けど……俺にはよく理解できなかったけど」
「それは……あなたがシステムの外にいるからよ」
「システムに支配されてるわたしには、よく判る」
「俺がシステムの外にいるとか、式子がシステムに支配されてるとか……一体その……システムって何なんだ?」
「自動的に動くんだけど、人間じゃなくて、人間の上に超越的に存在してて、そして人間を支配するもの」
「例えば具体的に言ったら……一番大きいものは『法』ね」
「ほう? 法律の法か?」
「うん、みんな、法律に従って生きてるでしょ?」
「……そりゃまあな」
「うん……社会を円滑に運営するためのルールとして法があって、それに従わない者は罰せられる」
「ま、当たり前のことね」
「でもそれだけじゃなくて、法はわたしたちの本能にまで食い込んで支配する」
「法なんていうのは生活を便利にするための道具に過ぎないのに、それが行動の自由まで束縛してる」
「……それって、当たり前のことなんじゃないのか? そうじゃないと、犯罪者が野放しになる」
「ああ……言い方が悪かったわね。行動の自由っていうか……自由度って言った方がいいかな」
「世の中には人がいっぱいいて、お互いに関係し合いながら生きている以上、個人の欲望は制限される」
「これはいいのよ。そうでないと、世の中、ほんとの混沌になっちゃうから」
「けど、何をどういう風に考えるか……何を欲するか……それは無限に自由なはずじゃない?」
「思想の自由とか、そういうやつか?」
「無理にそんな言葉引っ張り出してこなくていいけど、うん、そういうの」
「どういう意思を持つかっていうのが、人間を形作ってる訳じゃない?」
「でも法は、技術的に行動を制限するだけじゃなくて、無意識のレベルにまで入り込んで、人間の根本にある意思まで支配しちゃう」
「目に見えない超越的な存在にそんな風に支配されたら、もう人間は人間でなくなっちゃうでしょ?」
「しかもそういう存在って、姿が見えない分、歯止めがきかなくって、どんどん自走していっちゃう」
「だから……わたしたちは永遠にがんじがらめ。永遠に人間になれない」
「でも……それは克服できることなんじゃないのか?」
「式子はもうそのことを知ってるんだから、自分の意思で動けばいいんじゃないのか?」
「……そう簡単にはいかないのよ。そのことを知ってるからって、意思が自由になるってものじゃないのよ」
「こういうシステムっていうのは、無意識のレベルでわたしたちを支配してるものだからね」
「もっとも……システムの外にいて完全に自由なあなたには、このことは本当には理解できないでしょうけど」
「……式子、俺に何かできることがあるのか?」
「あ、でもあなたにはすごく感謝してるのよ。システムの存在を実感できるっていうのは、あなたが側にいてくれたお陰なんだから」
「あなたがいなかったら、わたしは何にも気づかずに、ずっと生きてるふりをしてただろうから」
「あなたは、存在してるだけで充分役に立ってる」
「今はもうね、あなたのお陰で理解できたの」
「わたしたちは超越的なシステムに支配されてる。でも、わたしたちにはそんなシステムは必要ない」
「必要なのはむしろ……人を支配しようという意思ね」
「……」
「……そうだな」
「わたしはまだあなたみたいにはなれない」
「ただ、あなたがそこにいるから……そこを目指して時間をかけて進化するしかない」
「確かに、目に見える範囲だったらな。聞こえる世界、触れる世界……そういう物理的な世界を超えて、もっと広い世界はあるだろ?」
「ああ。世界っていうのは、目とか耳とかで感じられるだけのちっぽけなものじゃないだろ?」
「元々、世界っていうのは心の中にあるものなんじゃないのか?」
「五感で感じられる物理的な世界なんていうのは、生きるために必要なちょっとした技術だろ?」
「だから……目で見える見せかけの世界から目を逸らして……悠歌の中にある本当の世界に目を向けたらいいんだ」
「そこは常に悠歌だけのもので……もしもずっとそこだけを見ているとしたら、俺なんていうのは永遠に新しいだろ?」
「俺は……どうあがいたって悠歌だけの世界に入ることはできないんだから」
「俺たちは……根本的に間違ってたんじゃないかな」
「……間違ってた?」
「うん。俺だけじゃなくて、悠歌だけじゃなくて、この世に生きてるほとんどの奴らは、根本的に間違ってたんだ」
「言葉っていうのは、相手に伝えるように話すものじゃないんだ」
「むしろ、誰にも伝わらないように話すものなんだ」
「……自分だけの言葉で、誰にも伝わらないように、自分の内側に向けて」
「それが前提なんだ。相手に伝わるようにじゃなくて、誰にも伝わらないように」
「そういう風に言葉を使うとしたら、もう世界に人間が1人だけだろうが、いっぱいいようが関係ない」
「ただ……自分の中だけ見てればいいからな」
「その上で……それでも、奇跡的に誰かに伝わってしまう。その奇跡を、祈るようなものなんじゃないか?」
「その……どきどきするっていうのは」
「確かに俺にも判ったよ。絶望っていうのは、よく言いがちだけど、人の心が判らないことなんかじゃない」
「そうじゃなくて、逆に人の心が判ってしまうことだ」
「人というのは……何ていうかな、大量生産みたいに、共通の鋳型で作られてる。まあ、生き物なんてみんなそうなんだろうけど」
「だから、人のことだってある程度理解できてしまう……そこに絶望がある。新鮮さが全然ない世界なんて……確かに悲しいよな」
「そう……だからこそ、自分の中の世界だけに目を向けて、自分のためだけに物語を作らないといけないんだ」
「そうやって完全な断絶を作って……その上で何かが来るのを夢見る……祈る……」
「それが……希望なんじゃないか?」「……そこは問題じゃないよ、きっと」
「……え?」
「むしろね、そこから幸せが生まれるんだよ」
「霞ちゃんと康介さんの間に壁があるから、霞ちゃんは康介さんを支配できるんだよ」
「その壁は、わたしたちにとって避けられないものなの」
「でもそれは悲しいことなんかじゃなくて、むしろ希望なんだよ」
「そこに壁があるから……相手を見なくて済むの」
「霞ちゃんは康介さんのことを見るんじゃなくて、霞ちゃんの中の康介さんを見ればいいんじゃないかな?」
「え……? それって、どういうこと?」
「人を支配するのに、相手を見る必要なんか全然ないってことだよ」
「壁のこっち側の、自分の中にいる康介さんを支配したらいいんだよ」
「あの……それって、ボクの心の中にいるお兄ちゃんを支配したらいいっていうこと……?」
「うん」
人が人を支配するということ。
人を支配する上で理解できないものは支配できないといいます。
それは問題ないといいます。
むしろ「壁」があるのが重要だと。
壁イコール理解できないもの……。
壁があるから相手を見なくて済むと。
理解できないものは避けられないと。
理解できないから見なくていいと。
支配とは、社会システムから脱することなのだと。
脱するには、自己の内面に理想とする他人の「像」を作りあげ、
それと対話することです。
『未来にキスを』は我々に優しく問いかけます。
良い人というのは、
自分が考える他人の理想像を当てはめているだけなのではないか、と。
自分の心中に理想とする他人像をつくりあげ、
自己の内面に理想の人を展開することが究極のコミュニケーションだと解答しているのです。
もう、コミュニケーションは必要ありません。
なぜなら、理想像と対話するだけで済むのだから。
「そう……昔、まだ『人間』っていうものがいた時代の懐かしさっていうのかな……」
「わたしたちの時代にはいなくなってしまった『人間』がまだそこにいるっていう……」
「わたしたちはもう、人間って言えるような存在じゃなくなりかけてるの」
さて、初対面の人でも、「この人はあの人と似ている」「あの人とあの人を足した感じだな」と、
人にはパターンがあると皆も考えていることでしょう。
それは、自走するシステムがあるからです。
そのパターンを共有していたのがいままでの人間です。
「ほんとなんだけど、世の中の人はほとんど知らないこと」
「でもね……本当の意味での人間は、もう滅びかけてるの」
「わたしたちはもう、人間って言えるような存在じゃなくなりかけてるの」
「人間が滅んで、新しいものが生まれようとしてるの」
「名前とかはついてないけど、今までの人間とは違う、新しい人」
「お互いに知らない人がいっぱいいて……でも何とか情報を交換し合って、お互いに共通の像を作り上げていく……」
「その動きそのものが、人間っていうものを作ってたと思うの……今までは」
「でも今は……もっと静かなものになってきてる」
「わたしたちはもう情報を交換しなくなって、ただ独り言を言うだけになってる」
「視線や言葉を内側に向けるだけになって……話す相手が外側じゃなくて内側になって……『知らない人』が存在しなくなってる」
「でも……人って……相手のことが全部判るようにはできてないから……お兄ちゃんの全部を支配できないって気づく時がきっとくるよ」
「霞ちゃんはお兄ちゃんという個人が好きなんじゃなくて、『お兄ちゃん』っていう概念が好きなんだよ」
「元々霞ちゃんの中に『お兄ちゃん』っていう概念が用意されてて、そこにお兄ちゃんという素材が現れて、うまくはまったんだよ」
「霞ちゃんが好きなのは、お兄ちゃんそのものじゃなくて、霞ちゃんの心の中の『お兄ちゃん』なんだよ」
「みんな相手のほんとの姿を見ようとしてたから……絶対に結ばれることがなかった」
「でも今は違うんだよ、霞ちゃん。世の中はすごく変わってきてるの」
「わたしたちは相手の本当の像を見ようとすることなしに、自分の中の相手を見てるの」
「だからわたしたちは幸せなの。そうして初めて、相手をずっと永遠に手に入れることができるから」
「ただ……わたしたちの存在が新しくなっても、頭の方はまだまだ旧いままだから、なかなかついていけないこともあるけどね」
「霞ちゃんも多分、混乱してるんだと思う。でもね……霞ちゃんの未来は薔薇色だってことは、覚えておいて欲しいの」
他人の理想像と会話するのでコミュニケーションは不要です。
「外的世界を内的世界に取り込んでるっていうか……逆に内的世界を外的世界に敷衍(ふえん)してるっていうか……」
自分の心の中で属性を展開しているだけと主張します。
そしてこれが、新人類の姿です。
「属性」と対話する。
なんて幸せなことでしょうか。
まるで、恋愛シミュレーションゲームのような……。
圧倒的な楽園です。
俺たちは今、現実と歴史が混じり合う場所に立っている。
未来へのスタートラインに立っている。
この先は、論理も何もない世界だ。
文脈も物語もない。
あるのはただ、ばらばらで、互いに関連づけられていない。
存在しないものたちだけ。
その世界に、人間なんていない。
彼らは、もう滅び去ってしまった。
俺たちもまた、もう人間ではない何かへと変化してしまった。
そこは、欲望あふれる荒野だ。
ただキャラクターがいて、ゲームがあるだけ。
キャラクターたちがゲームを繰り広げる、この新しい世界。
そんな世界へと、俺たちは今、足を踏み出そうとしている。
そう。
圧倒的な楽園に向けて。
Bye-bye, human.
総括
近代教育がつくった自走するシステム(実体のない超越的なシステム)により、
我々は人ではなく自動人形になっている。
「オートマトン」から脱するには、自己が思い描く理想とする人物像を他者に敷衍する必要がある。
感想
俺っちたち人間が本当の意味でわかりあうには、
恋愛シミュレーションゲームのようなコミュニケーションの方法しか残されていません。
人と人とは絶対にわかりあえず、
お互いがお互いの内面を見続けることしかできないからです。
理想の他者をお互いの心の中でつくりあげた先に、
どこかで、かち合うことがあれば、
真のコミュニケーションができるかもしれないと思いました。