野崎まど 『[映]アムリタ』 あらすじ

野崎まどのアムリタシリーズの読み方は、

  1. 『[映]アムリタ』
  2. 『小説家の作り方』
  3. 『死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~』
  4. 『パーフェクトフレンド』
  5. 『2』

の順番で読むといいかと思います。

『小説家の作り方』『死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~』は、

どちらを先に読んでも構いません。

ですが、『パーフェクトフレンド』は、最終章の『2』の前に読むといいでしょう。

『舞面真面とお面の女』は読まなくても、物語を読む上で支障はありません。

厳密にいうと、『小説家の作り方』『死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~』も読む必要はありません。

『[映]アムリタ』『パーフェクトフレンド』『2』だけでいいと思います。

野崎まどが脚本したアニメの中では、『正解するカド』がオススメです。

俺っちは、カドが好きですけど、

デウスエクスマキナ( Deus ex machina )すぎるきらいがあって、楽しめなかったキモオタもいるそうです。

『[映]アムリタ』の主人公は舞台装置でしかありません。

ヒーローではないです。

ただ、動き続ける機械人形なのです。

『正解するカド』のヤサクィザシュニナや『バビロン』の曲世 愛といった超常の天才が『[映]アムリタ』でも活躍をします。

その点は、『HELLO WORLD』なんかと違いますよね。

あれは、ジュブナイルやボーイミーツガールでしたし^ー^

野崎まど 『[映]アムリタ』 あらすじ

主人公・二見 遭一(ふたみ あいいち)は、

何の因果か、映画サークル・キネママグラに呼ばれ、

映画を撮ることになった。

監督は天才と言われている、最原 最早(さいはら もはや)だ。

一芸入試で教授にもてはやされたという。

「こんなのは映画ではない」と怒り出す教授もいたそうだ。

高校時代に日展にも洋画を出展し、

賞をとったそうだ。

絵の評価も、毀誉褒貶だったという。

そんな彼女が描いた絵コンテ・『月の海』を読むことになる。

ページをめくったら……。

なんと、主人公は56時間も絵コンテを読み続けていたというのだ。

ストーリーは普通の恋愛映画だったという。

得体の知れない超常的な力があるのだろうか。

主人公は全力で自転車を漕ぎ、映画サークルの部室まで行った。

部室には知らない人間がいた。

「最原……最早さん?」

「初めまして。二見 遭一さん……ですね」

「『月の海』の絵コンテを読まれましたか?」

「あの……あのコンテは、一体何なんです?」

「二見さん。愛とはなんですか?」

「……わかりません」

「何かを愛したことがありますか?」

「……それもわかりません。でも家族のことは、愛していると……思う」

「私の事を愛していますか?」

「愛してないです……。いや今会ったばかりでそんな愛とか急に言われても」

「私たちはこれから映画を撮ります」

「映画は素晴らしいものです。映画を通して、人の人生に語りかけることができる」

「私たちの作る映画は」

「とても素敵なものになりますよ」

『月の海』は、最原が監督で絵コンテを切っていたが、

シナリオを書いたのは定本由来(さだもと ゆき)という人物であり、

『月の海』に出演する役者でもあった。

交通事故で亡くなってしまったという。

また、最原と交際を始めたばかりだったそうだ。

とどのつまり、主人公は定本の代役として呼ばれたのである。

 

打ち入り(決起会のようなもの。中程まで頑張れたら、『中打ち』を開き、最後まで頑張れたら、『打ち上げ』を開くのが社会通念である)の描写にて。

「最原さんは、新しいものって何だと思う?」

「新しい、というのは多くの場合、主観的な定義です。生まれたてのネズミに見せればどんなものでも新しい」

「ですから、まず最初に誰に見せる映画なのかを決めて、そしてその人が見たことのない映画を作ればいいのです」

「つまり映画のオーダーメイドってことだね。なるほどね……」

「でも最原さん、映画って多数に見てもらうものじゃない? オーダーメイドは凄く分わかり易やすくて有りだとは思うけど。僕はせっかく作るのだから何百万、何千万の人に感動を与えたいと思う。それとも、もう現代においては何千万の人を感動させるような新しさを創造するのは無理って考えてるのかな?」

「兼森さんが話されているのは程度のお話ですね」

「何千万人を感動させた映画はすでにあります。これからも作られるでしょう。何億人を感動させた映画は多分ありませんね。これから作られる可能性はあります。ですが形態としては映画よりも、宗教に近くなってしまうのかもしれません。そして、全人類を感動させる映画はこれまで間違いなく存在しませんでしたし、これからも作られる事はないでしょう。人種、年齢、性別、文化を超えて全ての人類に同じ感動を引き起こすフィルムは、きっと映画とは定義されないと思います」

「そうだねぇ……そんな映画があったら麻薬と一緒だね。ちょっと興味はあるけど……」

「じゃあ最原さんは、何千万人を感動させる映画を作るにはどうしたら良いと思います?」

「対象とする人間群に対して、平均的で普遍的なテーマを扱って撮れば良いと思います。砕けた表現を用いるならば『広く浅く』ということです

「最原さん、広く浅くなんて言いますけど……。だったらさっき最原さんの言ったような、オーダーメイドの映画だったら、狭く深く作れるって言うんですか? もっと深く人を感動させられると?」

「そうですね」

「特定の個人を対象に映画を作れば、その人をより深く感動させることができるでしょう」

「深く……」

「深く感動させる、というのは」

「上映時間、例えば二時間の中で、見た人を笑わせて、怒らせて、泣かせて、希望を抱かせて、失望させて、願わせて、祈らせて、諦めさせて、死にたいと思わせて、それでもまた生きたいと思わせる。そういうことです」

最原は、生まれて初めて行った演技で人を感動させたという。

主人公は亡くなった定本によく似ているという。

また、サークルの先輩の兼森は例の絵コンテを22時間読んだらしい。

多くの人を惹きつける魔法の絵コンテの謎は深まるばかりだった。

映画の撮影は、拍子抜けするほど順調に進んだ。

最原の演技はとてつもないものだった。

どう微笑めば美しいのか、どう悲しめば愛おしいのか、どうのぞけば魅惑的なのか、彼女は過不足無く完璧に捉えていた。彼女の演技は模索ではなく、慣れでもなく、言うなれば美しい数式の答えのような、理屈を突き詰めると必然的に辿たどり着つく演技の解なのだった。

あるとき、最早の部屋に行くことになった。

最早のある部屋には壁一面に定本のスナップ写真が飾ってあった。

本棚をみると『月の海』の絵コンテがあった。

他にもいくつかの絵コンテがあった。

何気なく1冊を取ってみた。

タイトルは、『アムリタ』。

アムリタとは、『リグ・ヴェーダ』といったバラモン教の
聖典や『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』といったインドの二大叙事詩に登場する蜜(nectar)のことである。

目に入ったカットが『月の海』と同じだった。

これは、『月の海』の下書きなのだろうか。

2ページ目も『月の海』で見たカットばかりだった。

例えばこのカット四と六の間をつなぐ線を、仮に僕という人間の生命と非生命の境界としたとしても生命の死と自我の死の境界を定めること自体が関係を主体とする存在の定義と矛盾しており生命精神自我存在事象を分類しないと同時に認識するという現在の情報定義を根本的に再構築する非連続的遷移が必要な時列順序でこの言語様式に至っても二種三種の言語を交雑する以上のパラダイムシフトや複数の意義を持つ言葉の文脈連続判断の高度化高速化情報の集積累積による多層多元相互関係の同時構築と解析と並列化の並列化網化等価性時間場空間場文字音色光子電気信号小説音楽絵画写真映像映画演劇人生ヒト僕あらゆる透明な幽霊の複合体

意識をもぎとり全身の力を振り絞ってコンテを壁に投げつける。呼吸が速い。全身にびっしょりと汗をかいていた。

あの感覚。あの時の感覚。いや、同じじゃない。あれよりももっと、もっと全然強かった。

その後も、最原は、映画のために音大生並みのバイオリンを弾くなど、

精彩を放っていた。

「最原さんが、定本さんを、殺したって言うんですか?」

「最原さんの映画作りはまるで魔法だ。言うなれば、最原さんは魔法使いってことさ。そう……魔女だよ」

「魔女……」

「魔女と交際した男が、すぐに事故で死んだら、それは偶然かな?」

そして、試写がはじまる。

突然、声が響いた。最原さんの声。

つまり、映画のヒロインの声だ。

美しい声だった。音量的には十分な大きさで流れているはずなのに、僕はその声を静かだと感じだ。

静かな映画だと感じた。映画はとても静かに流れていった。

彼女は人を待っていた。それは恋人。今は離れて暮らす恋人。

上映開始から約十五分の間、カメラは彼女を追い続けた。劇中では名前も明かされない。

単なる一般人である彼女の、なんでもない生活を追い続けた。

そしてその間に、僕は彼女になっていた。

僕はその生活を見ながら、彼女の気持ちをトレースしていた。

十五分を過ぎて、カメラは変わる。画面に映る男性。僕。僕が演じる男。

女性の恋人。名は明かされない。カメラはまた彼も追う。

だが映像の質が変わっている。何か処理が施されている。

希薄な現実感。これは彼女の思い出か、それとも彼女の空想か。

見ている僕らには判別できない。彼の映像が流れる間も、僕はずっと彼女の気持ちをトレースし続けていた。

三十分、カメラは再び女性を映した。

彼女の暮らしは変わらない。昼と夜、晴れと雨、繰り返す日々。

一瞬。何かが映った。はっきりとはわからない。作っていた自分でも何のカットかわからなかった。

でも映像を目で確認できなくても、僕らは本当は解っていた。きっとこんな画だと想像が付いていた。それは彼の顔。彼女の中の彼の記憶。

そしてそれを思った時、涙が一筋こぼれた。僕は泣いていた。涙が流れたと自分で思ってから、その後に感情が付いてきた。

孤独の哀しみ。自分ではどうしようもできないことへの嘆き。耐えられない寂しさ。今泣かなければ、きっと心が壊れてしまうような気がした。

きっと彼女も今、泣いているのだろう。フレームの中に彼女はいない。声もしない。でも、きっと泣いているのだ。確信をもってそう思う。

カメラが、もう一度ノートパソコンを映す。画面のメールは、やはりカメラから遠くて読めない。

だけれどそこに書いてあるのは、きっと良い報しらせなのだと思った。

いつのまにか、哀しみは全て吹き飛んでいた。さっきまでの気分が噓のようだった。

彼女はPCを閉じると、着替えて部屋を出た。

カメラは彼女が出て行った部屋を、変わらず映していた。

スクリーンが真っ青になる。

そしてその後、ウィンドウズの画面が映し出された。

僕はハッとして周りを見回した。

部屋が暗くてシルエットしかわからないが、画素さんも、兼森さんも、試写に来ていたその他のスタッフ達も、みんな同じような動きをしているのがおかしかった。

きっとみんな泣いていたんだろう。僕と同じように。

そして僕の隣に座っていた彼女は。彼女だけはいつもと同じ。

隣の僕に向かって、笑うでもなく、泣くでもなく、「これで」と一言だけ言ったのだった。

打ち上げにて。

「でも、本当に良い映画が撮れたよ……。こんなに良い映画になるとは思わなかった。それに驚いた。あんな静謐なシナリオも書けたんだなぁ定本……。いや、もちろん最原さんがコンテでいじったとは思うけどね。それでも感動しちゃったよ。定本に感動させられたかと思うと、ちょっと悔しいね」

「定本さんて、以前はどんなシナリオを?」

「これの前に定本が書いたやつは、もっと俗っぽい感じだったよ。定本は評価される類の映画を撮りたがってたから。マイノリティよりはメジャー志向だったなぁ。だから『月の海』みたいな、ある意味静寂をポイントにするシナリオが書けるなんて意外だったよ」

「へぇ……。じゃあ実は定本さん、レパートリーが広かったってことですね」

「そうなんだろうね。惜しいやつを亡くしたよ。まぁこれだけのシナリオを置き土産にしてくれたのが救いかな……。本当に、良い映画になった」

「映画を見て僕の気持ちが変わったってことさ。それはもうガラッとね」

「僕も、こういう映画撮りたいって思ったんだ。昨日までの自分だったら絶対思わなかった。僕はもっと尖った映画が好きだったはずなんだけどな……。でも今は『月の海』みたいな映画が撮りたいよ。あの幸せな気持ちをもう一度味わいたいし、この気持ちをみんなにも伝えたい。映画でね」

「映画は人の心を動かすものだって、久しぶりに思い知らされたよ。だから二見君……その、こないだの話はもう忘れてほしい。本当に身勝手な話だけど」

 

美しい映画だった。なめらかに磨き上げられた月長石のような、優しい光に包まれたフィルムだった。

僕も画素さんも兼森さんも、その心地よい光に魅了され、心を震わせた。

だけど、僕らの胸を衝いたその光ですら、彼女の持つ才能のほんの片鱗に過ぎないのだろう。

あの映画はきっと、最原さんという天才の隙間から染み出した仄明かりでしかない。

彼女の才能はこんなものではない。

だけど僕らのような持たざる者がいくら隙間から覗いたとしても、染み出すわずかな明かりすら眩しすぎて、彼女の中など何も見えないのだ。

今、定本さんの気持ちが少し解った気がした。

この光をこれからも見ていたい。失いたくない。自分の物にして、ずっと大切にしたい。

尊敬、羨望、嫉妬、思慕、色んな気持ちが混ざり合った中から最後に浮かび上がった、至ってシンプルな気持ち。宝物が、ただ欲しいということ。

「私の事を愛していますか?」

最原さんは、初めて会った時と同じように、何の前触れもなくそう聞いた。

僕は。

努めて、努めて、努めて冷静に答えた。

「愛してませんよ」

最原さんは薄く微笑んだ。

最原さんの家の前で、僕は一つ質問をした。本当はずっと聞きたかったのかもしれない話。

「定本さんのどの辺が好きだったんですか?」

彼女は簡単に答えた。

「つっこみなところです」

最原が失踪した。

その折、篠目ねむという女性が現れる。

神経生理学の院生であり、最原の映画を研究しているという。

入試のときの映画を主人公に見せてくれることになる。

それは、最原がつくったとは到底思えない素人の自主制作映画の見本のようだった。

だが、主人公は泣いていた。

慟哭ともいっていい。

映画の映像は、ほとんど意味がないという。

映画の中にあった2カットを見ることにより、感情の高揚が誘発されるのだという。

サブリミナル効果だろうか。

つまり、ひとの感情を操作できる映画だったのである。

しかも、映画によって人の記憶を操れるという。

そして、主人公は困惑する。

もしかしたら……『月の海』も……。

そして、主人公は、『アムリタ』を完成させます。

「『アムリタ』を下書きに『月の海』を作ったんじゃない。『アムリタ』を作るために『月の海』を作った」

そして、『月の海』と同じカットを使っているのに、

ストーリーが全く違うものだった。

ストーリーなどなく、支離滅裂な内容だった。

「画面をピンクに明滅させるだの、映像を回転させながら流すだの、とてもまともな映画じゃなかった。僕は思いましたよ。こんな映画、サブカル過ぎて誰も手伝ってくれないだろうと」

『月の海』は誰も手伝わないだろう『アムリタ』を作るための客寄せパンダだったのである。

そして、サイケデリックな映像が『月の海』のように人間の脳に作用するのである。

シナリオは定本が書いたのではなく、もちろん最原であり、

主人公は定本に顔が似ていたからである。

そうすれば、サークルのメンツが映画を作ると思ったからである。

だが、最原は何のために『アムリタ』を作ろうとしたのだろうか。

「映画はそんなに狭いものじゃない。映画はそんなに浅いものじゃない。ストーリーに感動したら映画で、無理矢理感動させたら薬なんて、そんなのは全く間違った定義です。映画には力がある。薬なんかよりもっともっと強い力がある。僕が役者の道を志したのは、中学生の時に見た一本の映画のためなんです。あの時、あの映画には、間違いなく僕の人生を変えるだけの力があった」

僕は最原さんに向き直った。

彼女も僕をまっすぐに見据えた。

「最原さん」

「はい」

「最原さんは、映画で僕を泣かせることができますか」

「できます」

「映画で僕の考えを百八十度変えてしまうことができますか」

「できます」

「映画でそれらを同時にすることができますか」

「できます」

「映画で」

「僕を別人にできますか」

「できます」

「『アムリタ』は見た人を定本由来にする映画ですね」

「そうです」

最原最早は薄く微笑んだ。

そう、『アムリタ』とは、見た人を定本のような人間に変えてしまう映画だったのである。

まさに、人間操縦……、いや、洗脳である。

「もちろん一度頭から見てしまえば、それで終わりです。可逆性はありません」

そして、最原は、主人公に『アムリタ』をみせる気だったのだ。

容姿が似ており、定本の代役として適任だったから。

最原は、『アムリタ』を使って定本を再現しようとしたのだ。

そして、主人公は、定本になるために、『アムリタ』を作ったのだという。

「なぜ『アムリタ』を作ったのか?」

だったら答えようじゃないか。

役者として最高のパフォーマンスで。

「簡単ですよ。僕が見るためです。僕は定本さんになります」

「それに、これは最原さんのためだけじゃないんですよ。この映画、『アムリタ』は僕がずっと見たかった映画なんです。人の心を丸々変えてしまうような、そんな人智を超えた映画。まさしく神様の映画じゃないですか。そんなの、見たいに決まってる」

「それにもう一つ。この映画を見て僕が定本さんになったら、最原さんが恋人になってくれるんでしょう?」

「だったらそれも悪くない」

 

「私は想像を膨らませました。これから少女マンガで読んだようなキラキラした世界が始まるのだと。想ったり、想われたり、命を懸けて私のことを守ってくれたりするのだと」

「定本さんが亡くなった時、私の期待した世界は訪れないのだと知りました。恋愛。恋人。愛しあうこと。私はこの希望をどうにかして叶えたいと思ったのです」

「私は、定本さんの人格を再現する映画を作ろうと考えました」

「私は『アムリタ』を作りました。完成はすぐでした。そんなに難しい作業ではありませんので、一人でも問題なく作ることができました。そして私は完成した『アムリタ』を、ある人に見せました

ある人とは主人公のことである。

主人公の人格は、もうすでに定本に書き換えられていたのだった。

そして、院生の篠目ねむも最原の変装だった。

「ああ……凄いですね……ある程度の情報を集積すれば未知のオーダーの表現が成されるとは思っていたんですが……とても素敵です……この立体感……人間の限界を超えた情報が編み込まれている……」

「二見さんが喜ぶように作った、二見さんのための映画です。私からの、プレゼントです」

それはまるで。

「これを見て」

映画の音声のようだった。

「忘れてください」

何も知らない、以前の僕に戻るだけなのだろう。

でも、それでも。僕という人間の連続が途切れることだけは間違いないのだろう。

主人公の人格がすでに書き換わっていることは、冒頭のシーンにも描かれています。

もう一度読むと話の全貌がより明らかになると思います^ー^

「へぇ……二見君でも、そんな評価することあるんだ」

「え? なんかおかしかったですか?」

「いや、二見君はいつも役者の演技の話ばっかりだからさ。それにこの映画みたいなマイノリティっぽいの好きじゃん。一般受けなんて言うから、ちょっとびっくりしたんだよ」

なるほど。言われてみて自分でも確かにそう思う。

最近ちょっと映画の見方が変わってきたように感じる。これまで自分が役者のせいか、見るのも役者の演技の善よし悪あしばかりだったけれど。最近は演出とか作品全体のことを見るようになった気がする。

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