一日を無限にループする作品というのは、いままでに数多くあった。
映画でいえば『恋はデジャ・ブ』であったり、
特撮では『未来戦隊タイムレンジャー』の「明日が来ない」であったり、
キモオタ作品なら『 STEINS;GATE 』が挙げられるだろう。
『 STEINS;GATE(シュタインズゲート) 』は「アトラクタフィールド」と呼ばれる概念によって時空が分岐する設定を軸にした作品だ。
分岐された時空は「世界線」と呼ばれ、
シュタインズゲートでは、どんな選択肢を選ぼうと、その世界線での結果は収斂される。
そして、主人公は「幼馴染の女の子が死ぬ未来」「茶髪の女の子が死ぬ未来」のどちらかを選ばなければならない。
選択によっては、同じ時間を繰り返すようになるのだ。
それは、一度みたブルーレイと同じである。
日々の情景や台詞、出来事などは全て既視感に変わってしまう。
うつろな目になっていく主人公の様は、
一日を繰り返した人間の、人生への諦観といっていいだろう。
最近になって発売された key の『 LOOPERS -ルーパーズ- 』は、
いままでのループモノとは違った作風である。
1日を繰り返すという点は往年の作品と同じだが、
ループする月日の中で、無尽蔵ともいえる時間のリソースを使い、
主人公は友だちと同じ時間を共有し、共に遊び、人生を謳歌していく――。
ループモノでこんなにも明るい作品は『 LOOPERS -ルーパーズ- 』がはじめてではないだろうか?
あらすじ
ふとしたことから、8月1日を繰り返すようになる主人公・タイラと金髪ツインテールのヒルダ(昼田 貴理子)さん。
主人公は、スマートフォンの位置情報を利用した「ジオハンティング(宝探し)」にハマっているナイスガイである。
ちなみに、現実にも「ジオキャッシング( Geocaching )」という似たような遊びがある。
絵柄も、こうしたジャンルのゲームの中では新しさがある。
永井博 風であったり、鈴木 英人 風であったり、
80年代のイラストレーションを彷彿とさせる。
近年、こうしたイラストのことを City Pop と呼ぶようだ。
8月1日を繰り返す事象は、我々がよく知るタイムスリップやタイムリープとは異なるようである。
『 LOOPERS -ルーパーズ- 』の作中では「時の渦」と呼ばれている。
同じ日を繰り返す、時の渦の中では、
「記憶」以外の情報を持ち越せない。
そのため、コンピュータのデータや肉体など、
ありとあらゆるものが8月1日の状態にリセットされてしまうのだ。
時の渦に巻き込まれた少年少女たちの会合・「ルーパーズ」に主人公は参加することになる。
時の渦が初めて観測されたのは、1994年の米国メリーランド州であるという。
巻き込まれるのは若者に限られ、社会が不安定になると発生するとされている。
20年、30年あるいはそれ以上の時間を時の渦で過ごすことになるらしい。
ルーパーズのなかにはサイモンのように15年過ごしている者もいる。
ミア嬢(藤川 みあ)は、もっと長い時間を時の渦で過ごしたのだろう。
時の渦は「無期懲役のような世界」「永遠の牢獄」「無限の退屈」「時空の無人島」であるという。
不老不死ともいえるルーパーであるが、
心の疲弊や精神の老化は避けられない。
同じことを繰り返し、やることがなくなると人は絶望するのである。
時の渦のなかではループしリセットされる。
カネや時間は実質無制限であり、死すらも恐れる必要はない。
万能ではあるがゆえ、
ルーパーは……人は……絶望してしまうのである。
物語を進めていくと、
主人公はミア嬢と遊ぶことになる。
ミア嬢は「監視役」とは言っていたものの、次第に心を開いていく。
時の渦は、まるで「胡蝶の夢」であるとミア嬢はいう。
幼い面差しなのに、どこか影のある彼女は、何だか達観している。
主人公はファーストクラスで南国に行くなど遊びの限りを尽くす。
豪遊していた主人公であるが、
ミア嬢の心を開くため、
お金では買えない遊びをミア嬢に教えることに。
綺羅びやかな観覧車のイルミネーションと燦然と輝く花火のコラボレーションはミア嬢の心を打つ。
???「宝探しって……どうして楽しいのでしょう」
???「信じて。それが間違いじゃなかったって認められるからだろうな」
???「宝探しって信じることが大前提の遊びなんだ」
???「宝物があると信じることができるから、探し続けることができる……」
筋トレが好きな人は、自身の体が鍛えられないことに悲観し、
動画実況者は、投稿した動画がリセットされることに嘆き、
同人作家は、漫画が白紙になることを悲しんでいた。
創作活動やトレーニングは、自己表現であり生きがいでもあったのだ。
そうしたルーパーズに主人公は遊びを……宝探しを教えるのである。
彼らにとって自分自身の内側を覗くフェイズであったのかもしれない。
同人作家はフォロワーに迎合するあまり自分の好きな作品を描けなくなっていた。
動画実況者は自分が本当にやりたいことの動画を作れなくなった。
時の渦を抜けたら、
自分が本当に好きなことで生きていくと己を鼓舞する。
――楽しさは自分で探すもの。
キモオタのように「暇だ」とほざくのでなく、
楽しみは自分で探し続けるものなのである。
俺っちたちも、あらゆるコンテンツが溢れる2020年代において、
自分が心の底から好きだと思えるコンテンツを味わっていきたいものだ。
都市伝説の「探し女」の正体
「探し女」の正体がミア嬢であるのは物語を進めていけばわかることである。
探し女の正体を明かす描写は蛇足だと思った。
キモオタが「伏線! 伏線! 伏線!」とウザいからこうなったのだろう。
ミア嬢の告白
観覧車でミア嬢はある告白をしようとするが思い止まる。
最古参のルーパーであるミア嬢は、
宝探しを例に、自身の秘密を打ち明けようとしたのだろう。
???「『終わりのある宝探し』と『ずっと続けられる、終わりのない宝探し』……タイラはやっぱり……終わりのある宝探しのほうが好き……ですか?」
ミア嬢の正体
ついに、時の渦を抜けられるように。
だが……、
???「わたしは……ここに残ります。わたしにはその先の未来はありません。この世界でこれからもずっと、楽しく過ごします」
主人公は説得するが……、
???「わたしに明日は、もうないからです」
???「……永遠の今日を、生涯、忘れられない素敵な今日にしてくれて、本当にありがとう」
時の渦を抜けたルーパーズは、
ミア嬢が生まれつきの難病・「クライネ・レヴィン反復性昏睡症」だと知る。
そして、彼女の未来がないことも。
彼女自身が未来を諦めていたことを――。
時の渦をひとりきりで過ごす彼女は、遠く懐かしい思い出を想起する。
ルーパーズと過ごした楽しい日々……主人公と遊んだキラキラとした毎日を、だ。
そんな折、時の渦が崩壊する。
永遠なんてあるわけがない。
約束された永遠の中で生きていた彼女は、自身の選択を後悔する。
君が望む永遠ではなく、明日の君と会うことになる。
一方、主人公はミア嬢に会うために画策する。
時の渦は「明日が来なければいい」と思う若者の思念が作ったものだと解す。
そうした「おまじない」をとくために主人公たちは奔走するのである。
崩壊していく時の渦のなかで、ミア嬢は決意を新たにする。
???「明日を……信じられなかった……」
未来は変えていける。
???「……探さなきゃ……探さなきゃ……」
ちなみに、ここらへんのシーンはモイモイ泣いてしまった。
探し女は、時の渦の出口を探しているミア嬢自身だったのである。
そして、引きこもりや不登校といった現代社会を恐れる若者へのメッセージなのだ。
主人公は、ミア嬢と再会する。
夢かもしれないし、幻かもしれない。
まばゆい光の中で抱擁を交わす。
病室で、元の世界で、二人は再会する。
感想
本作は「キネティックノベル」というスタイルをとり、
ルートや選択肢といった無駄なものはない。
まさに「電動小説」である。
ブックオフに売っている100円のライトノベルを読むぐらいの感覚で気軽に取り組める。
プレイ時間は3時間ぐらいだった。
作品の評価としては、
絵柄も好みでシナリオも良い。
1クール程度のアニメ向きの作品に思えるが、
TVアニメになると監督や放送作家の恣意的な解釈により、
『神様になった日』と同じような趣きになることが想定される。
また、探し女の正体を明かすのは蛇足なので書かなくて良い。