『イエスタデイをうたって』

『イエスタデイをうたって』という作品をご存知だろうか?

冬目 景という作家が描いた漫画である。

大学を卒業したがフリーターになってしなった主人公が、

高校を中退した野中 晴(のなか はる)と出会うところから物語は始まる。

野中 晴は、大学受験の際に受験票を拾ってもらった伊達眼鏡の少女であった。

大学時代の友達の森ノ目 榀子(もりのめ しなこ)に思いの丈を打ち明けるが……。

1998年から不定期で連載していて2015年ぐらいに完結した。

P.A.WORKS はTVアニメ『true tears』で、

『イエスタディをうたって』を見事にインスパイアし、

野中 晴と似通った、石動 乃絵という天真爛漫なキャラクターを生み出した。

後に、P.A.WORKS は『色づく世界の明日から』という青春群像劇の傑作を作り上げている。

『イエスタデイをうたって』は長期連載なものだから、

物語の終盤ではスマートフォンが登場している。

登場人物たちも成長する。

十年一昔である。

榀子は1巻のころに比べると別人だし、主人公だってそうだ。

漫画としての絵柄は、3巻ぐらいまでが好みである。

ニヒリズムのような作風が世紀末と相まって良かったと思われる。

フリーアルバイター(フリーター)がブームだった、一時代を描いているのである。

???「近頃、社会を自由形で泳ぐ奴らがいる!」

 

もちろん、時勢を踏まえ、主人公は就職するし、

晴も主人公も禁煙している。

主人公と榀子は交際することになるが別れる。

主人公は、こういっている。

「オレ達、お互いにもっと解り合っていくには……友達の頃とは違う時間が必要なんだと思ってた。それなら焦らずにゆっくりやっていけばいいと思っていた……でも……それは、どうやら違うんだよね。このまま努力しても平行線だと思う。中途半端に大人なオレ達は……頭で考えすぎてるんだ。たいした人生経験も無いからさ。そう思わない?」

「“こうあるべき自分“ていうのがオマエ(榀子)の中にあって、それに当てはめようとしていたんだ。俺たち似たもの同士だったんだ」

似た者同士だからこそ、親友でいられたのである。

榀子は別れ際に、「まだ友達でいてくれるよね?」と言っている。

1巻では「あたしね……男と女で親友になれるとしたら、魚住くんはかなり近い線だって思ってたんだけど……」とも言っていた。

最終巻の終わりのページでは、満開の桜を見ながら歩く榀子の姿が描かれている。

夏になって秋になり、冬が過ぎて、

また春が来るのである。

彼らの物語はずっと続いていくのだから。

???「要するに……同じ所をぐるぐるしなくなったって事……」

 

作中に興味深い台詞がある。

室生犀星むろうさいせいの詩に『ふるさとは遠きにありて思ふもの』ってのがあるじゃない。それにちょっと近い心境かな。帰りたいけど、もう僕の帰る場所じゃないんだ」

学校や会社をズル休みしたときや日曜日とかに読むのがオススメだ。

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